
「この楽器がまたステージで輝く日が来るのなら、それが何よりの供養になります」。そう静かに微笑んでケースを差し出されたお客様。難波の喧騒を離れた査定カウンターで開かれたその中身は、ヤマハが世界に誇る伝説の一本、初代カスタムモデルの『YTR-934ML』でした。何十年もの間、大切に保管されてきたことが一目でわかるその佇まいに、私も背筋が伸びる思いで拝見させていただきました。このYTR-934MLは、1970年代から80年代、ヤマハが世界のトップブランドへと駆け上がる過程で生まれた、当時の技術の結晶です。現行の「Xeno(ゼノ)」シリーズのルーツとも言えるモデルで、熟練の職人が一枚の板から叩き出す「一枚取りベル」による、深みのある豊かな響きは現代の楽器にも引けを取りません。特にML(ミディアムラージ)ボアが生み出す絶妙な吹奏感は、当時のトッププロたちを虜にしました。現在では手に入らない希少なジャパン・ヴィンテージとして、コレクターの間でも極めて高い評価を得ている名機です。今回の査定で特に私が注視したのは、楽器の「心臓部」であるピストンの精度です。どれほど外観が美しくても、ピストンの気密性が失われていては、楽器としての価値は半減してしまいます。実際に指を触れてみると、驚くほど滑らかなアクションで、現代の楽器以上にタイトな造り込みが維持されていました。また、ラッカーの状態や管体の凹みだけでなく、第3抜差管の可動域やウォーターキーのバネの生きた感触も確認。当時のオリジナルパーツが完璧な状態で保たれていたことが、最高額での買取を実現させる決め手となりました。こうしたヴィンテージ楽器を所有されている方へ、コンディション維持のためのアドバイスをさせていただきます。最も注意すべきは、ピストンや抜差管の「固着」です。長期間演奏しない場合でも、半年に一度は古いグリスを拭き取り、新しいものを塗布して可動部を動かしてあげてください。また、マウスピースを差し込んだまま放置すると、金属が反応して抜けなくなるトラブルが多発します。これらを無理に力で解決しようとすると管体が歪み、査定額を大きく下げる要因になりますので、そのままの状態でお持ちいただくのが最善です。お伝えした査定額に、お客様は「楽器の価値だけでなく、これまでの思い出も汲み取ってもらえた気がします」と、非常に満足されたご様子でお帰りになられました。難波の街で日々楽器と向き合う私たちにとって、こうした歴史的な名機を次の奏者へ繋ぐことは、一種の使命だと感じています。もし、皆様のクローゼットや押し入れに、かつての情熱と共に眠っているトランペットやサックスがございましたら、ぜひ一度拝見させてください。その楽器が持つ真の価値を、専門の鑑定士が誠心誠意、見極めさせていただきます。

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