
「学生時代に吹奏楽部で使っていたのですが、もう何十年もケースを開けていなくて…」と、少し緊張した面持ちでご来店されたのは、大切そうに使い込まれたハードケースを抱えたお客様でした。中から現れたのは、日本のフルート界が誇る名門、ムラマツの逸品です。刻印がないため正確なモデル名は判別できませんが、手に取った瞬間に伝わってくる楽器の重厚さと、キーの吸い付くような感触は、紛れもなく歴史ある職人技によって作られたものだと確信しました。ムラマツのフルートは、世界中の奏者から信頼される、いわば一生モノの楽器です。モデル名や製造番号の記載がない時代のものには、カタログスペック以上の職人の息吹が込められています。管体に使用されている銀の質感や、一つひとつ手作業で調整されたキーメカニズムは、現在の量産モデルにはない独自の柔らかい響きを持っています。これぞ楽器というべき精緻な作りは、たとえ何年経過していてもメンテナンスさえ施せば、再び豊かな音色を奏でられるポテンシャルを秘めています。鑑定において最も重要視したのは、フルートの心臓部であるタンポの気密性と、キーの動作の滑らかさです。フルートは息を吹き込む楽器である以上、タンポが劣化して隙間が開いてしまうと、正しい音を出すことができません。今回は幸いにも、長年の保管中に湿気対策がなされていたため、タンポの状態は良好でした。また、キーを動かした際の異音やバネの強さもチェックしました。金属の腐食が見受けられないことから、持ち主の方がいかに大切に楽器を管理されていたかが一目瞭然でしたので、その歴史的な価値と楽器としての質を最大限に評価し、自信を持った価格をご提示いたしました。長年眠っている管楽器をお持ちの方に、一つだけ気をつけていただきたいことがあります。それは、ご自身での磨きや修理を極力避けてほしいということです。楽器用クロスで軽く拭く程度なら問題ありませんが、市販のシルバー磨き剤を不用意に使うと、研磨剤がキーの隙間に入り込み、動作不良の原因になります。また、無理にキーを動かして固着を直そうとすると、繊細なバネが折れてしまうこともあります。楽器はできるだけそのままの状態でお持ちいただくのが、査定額を守る上では最も安全です。査定を終え、楽器をお渡しいただいたお客様の「また誰かに吹いてもらえたら嬉しい」という言葉が心に残りました。私たちは単に物を買い取っているのではなく、その楽器が紡いできた音楽の時間をお預かりしているのだと感じます。もしご自宅の押し入れで眠っている楽器があれば、ぜひ一度見せてください。その楽器の価値と物語を尊重し、次の奏者へ橋渡しをするお手伝いをさせていただきます。

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